ポエム 信じる力

信じる力
──善を思わず悪を思わず  『六祖壇教』


ひとりが苦しんでいるとき、そのひとりを信
じて手を差し伸べる。ただひとりとただひと
りになって、ただひとりを救う。いのちの力。
内なる静けさをとりもどさせるために。


本来、神仏の力でないものは何ひとつない。
さかしら心のみがそこから外れる。生死のみ
がきちんとあって、そのほかに何もないこと
を知れば、苦悩することなど何もないのだ。
私という心を離脱すれば、神仏でないものは
何ひとつない。


今があるというのはそういう時だ。いつ死ん
でもおかしくない生という艱難のなかを歩み
つづける。逆巻く向かい風のなかを進む。本
来はひとつの水が、われわれという革袋のな
かでひとりひとりを分け隔てているだけなの
だ。


そこには信じる力のほかに何も要らない。脳
髄のなかにある対立、それをふたつながらに
消してしまう。それを消せないのはみずから
に執着しているからだ。みずからのこころに
隷属しているからだ。ひとりとひとりを分け
隔てる水を撥無するとき、ただひとりがただ
ひとりを救うのだ。