taro5908488のブログの新着ブログ記事
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ライフワーク F・H氏に かれは大学を卒業後、フリーターを経て、都 銀の不動産会社に採用された。よく働き、行 政書士等の資格をとった。定年を了え六十三 まで勤めた。それと同時に禅の修行を積んだ。 七十を過ぎて、みずからが生まれ育った街の 中心地にちいさな家を買って、妻... 続きをみる
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天子の使徒 二 K・W氏に 福原跡に仮寓してから二ヵ月が経とうとして いる。季節は穀雨に入った。明け方はまだ寒 い。おまえからの返事はまだ来ない。おまえ のことだから、こころ動かざること、勝たざ るを視ること猶勝つがごとし。みずからを省 みて直くんば、千万人と雖もわれ往かん、と 気を練っているのか... 続きをみる
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パペットの交差点 車の行き交う交差点をことほぐために青きも のなき都市の泥濘をゆく。おれの志はいまだ 変わらず。中身のない暗愚の人びとの多さに、 いまさらながら愕かされる。泥濘の脳髄たち がいたずらにこころなき口をひらく。自己を 深めることもなく、まるでテレビでも視るよ うに、その対象をあざける類... 続きをみる
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空白のニルヴァーナ ひとつの状況は鳩の来る公園で始まった。郵 便夫が、鞄からとりだした封筒の封を切って いた。届くことのない郵便物が、個人的な指 先で開封されてよいものかどうか。地鳴りの ような音をたてて、車が行き過ぎた。 空白の三年、そのまえの空白の五年。おれは 言葉を求めてさまようことなく、こ... 続きをみる
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愚者の問われ方 生を離れ、死を離れて、生きているいのち。 おれたちは苔の生えている石でできた手洗 い場所で、手を洗い、その水を飲んだ。草 原に寝そべって遊んだ。おれたちはそれぞ れどんな未来が拓けているのか、話したは ずだ。 それが今になって、いったい自分の人生で 何が起こったのか整理するのはすこ... 続きをみる
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消えることのない火 右手にあった、失った池を思いながら、そ の白壁の塀のぬかるんだ細道をいつも歩い ていた。白壁の塀はすっかり剥がれ落ちて、 黄土色に剥がれ、さらに深く灰色に剥がれ ていた。失った友、失った家郷。 その白壁から柘榴の樹が一本あって、おれ の眼を楽しませていた。柘榴の花を遠めに 見て... 続きをみる
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行程のゆくえ いつも通る舗道は、線路との境を明確にする ために、洞窟をつららする白い水晶のかたち をした石杭で区別される。鉄路が赤錆びて繋 がっていて、路石は鈍いあかがね色に染まっ ているのが、おれの眼の高さに見える。ここ にじっとしていると、列車がやって来て鉄路 を打ち鳴らし、おおきくカーヴして... 続きをみる
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記憶のトルソ ひとりが蹲っているとき、もうひとりは走ら なければならなかった。おお、記憶のトルソ よ。頭のない、腕のない、脚のない、なまめ かしく捻じれたその胴さえもないおまえ。い なくなったおまえのために、ひとりが蹲り、 ひとりが走るのだ。おまえの血は、われわれ のなかにも巡っているのだ... 続きをみる
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水霊のめぐり 岩壁の罅の入ったところどころから、沁みだ してくる薄い水のヴェール。陽に輝いている 水の岩壁。おれは工事中の駅の構内にいても、 その罅より湧きだす水を視ることができる。 てのひらで触れれば、落ちくる流れのなかに おれの熱いてのひらを冷たく覆う水。すべて あたらしい水として、おれのての... 続きをみる
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