ポエム 水霊のめぐり

水霊のめぐり


岩壁の罅の入ったところどころから、沁みだ
してくる薄い水のヴェール。陽に輝いている
水の岩壁。おれは工事中の駅の構内にいても、
その罅より湧きだす水を視ることができる。
てのひらで触れれば、落ちくる流れのなかに
おれの熱いてのひらを冷たく覆う水。すべて
あたらしい水として、おれのてのひらから飛
び散って、わがいのちを純粋に熱くする。


生きているあいだは、目的を持ってもよいだ
ろう。穢れのない目的を。われわれの根底に
あるいのち。いのちのちから。われわれは奇
妙なことだが、一瞬の永遠を生きつづけてい
るのだ。馬鹿な楽しみは楽しみでも何でもな
い苦い過去になる他はない。生死と言えばそ 
れまでなのに、みずからのいのちに目覚める
ことなく哀れに死んでゆくひとたちよ。


 地息する場所をたどり、ああ、岩肌づたいに 
ながれくる水の音が聞こえる。その水は足も
との岩場の隙をはげしく零れおちていって、
また視界から消えるが、われわれのいのちを
潤すためにまた何処からか、眼の見えるとこ 
ろへと経めぐって来るのだ。