ポエム 地獄の記録

地獄の記録


磁気嵐のなかを歩いた。磁気嵐のなかでおれ
は方向をとれなかった。どちらに進んでよい
のか分からなくなっていた。磁気嵐のなかで
しばらくの間、立ち止まらなければならなか
った。放電する磁気嵐のなかで、耐えねばな
らなかった。服のなかに頭を隠したまま、う
つ伏せに横たわっていた。


仲間との通信も取れなかった。おれはまった
く孤立した。死がそこまでやって来ているよ
うに思われたが、おれはそれを楽しんだ。生
きるか死ぬかは誰にも分からないのだ。おれ
は生に賭けるしかなかった。死んでも悔いは
なかった。過ぎ去った時間はここにはない。
どうして後悔することがあるだろうか。


おれが試したのは磁気嵐と闘うことではなか
った。その現象を克明に身心に記憶させるこ
とだった。自身の身心を一冊のノートにした。
ひとつの地獄を極楽に変えるために、おれは
まず地獄の法則を記録した。身体のあちこち
が痛んだが、心は次第に動じなくなっていっ
た。むしろ痛みとともに生きたと言ったほう
がよいかもしれない。恐怖ではなく恐怖心に
耐えることを覚えたのだ。


どんな地獄もひとつの法則性があるのだ。そ
の法則性を知れば、痛みに耐える耐え方も分
かって来る。おれは今でもその法則性のなか
で生きていると、おまえに伝えることができ
る。それを文字化するのもここでの法則性の
ひとつである。遠くで女の子の歌声が聞こえ
る。地獄をも楽しむ、これがおれというノー
トに記録した言葉だ。