ポエム 行程のゆくえ

行程のゆくえ


いつも通る舗道は、線路との境を明確にする
ために、洞窟をつららする白い水晶のかたち
をした石杭で区別される。鉄路が赤錆びて繋
がっていて、路石は鈍いあかがね色に染まっ
ているのが、おれの眼の高さに見える。ここ
にじっとしていると、列車がやって来て鉄路
を打ち鳴らし、おおきくカーヴして過ぎさっ
てゆく。


あの頃は雨のなかで運動靴を踏むたびに、そ
のなかより水と空気が音を鳴らしておれたち
は歩いた。高原にある湖を中心にして、トタ
ン板やダンボールで草滑りするだけでよかっ
た。そこへ行くまでにはいくつもの無人駅に
止まる列車に乗っていった。列車が来ると鉄
路の真中を歩いているひとびとが脇にゆっく
りとかたまって避けていった。


草を滑って雨に打たれても、おれたちはいっ
そうの生命力を輝かせていたものだ。そして
年寄り、病んで、死んでゆくすべての行程が、
揺るぎもなく素晴らしいものであることが自
覚できるのだ。


鉄路を通った何台もの列車。そのなかに乗り
合わせたひとびと。また乗り合わせなかった
ひとびとを含めて、その世代世代を生かされ
て生きているということが如実に身に応えて
分かるようになっている。列車が来て鉄路を
打ち、またおおきくカーヴして過ぎてゆく。