ポエム ライフワーク

ライフワーク
               F・H氏に


かれは大学を卒業後、フリーターを経て、都
銀の不動産会社に採用された。よく働き、行
政書士等の資格をとった。定年を了え六十三
まで勤めた。それと同時に禅の修行を積んだ。


七十を過ぎて、みずからが生まれ育った街の
中心地にちいさな家を買って、妻と別居した。
禅仏教の学習と神戸震災の朗読や傾聴、宮沢
賢治の読書会、その他ボランティア活動など
のライフワークを実行するためだったらしい。
夜九時には就寝して、午前三時には起床する。
起床するとまず風呂に入り、そのあと、家の
拭き掃除等、家事をはじめるか、みずからの
勉強をする。


妻と子供たちには、すでに遺書をのこしてい
る。かれの妻はその突然のような、別居によ
って、ひどく悲しんでいるらしい。娘たちも
同様で、かれを非難するが、かれは死ぬまで
に自分がしたいことを自由に貫こうとしてい
る。


戦後、貧しい時代に育ったかれは、身に着け
た、否、身につけねば生きてこられなかった、
様ざまな生きる技術をライフワークに活かし
ている。かれはみずからを多動性障害だと言
っているが、しょっちゅう、身体を動かして、
歩くのはとても速い。今日もまた家にいない。
何処に行くともなしに、自在にそのいのちの
まま動いているのだ。