ポエム 消えることのない火

消えることのない火


右手にあった、失った池を思いながら、そ
の白壁の塀のぬかるんだ細道をいつも歩い
ていた。白壁の塀はすっかり剥がれ落ちて、
黄土色に剥がれ、さらに深く灰色に剥がれ
ていた。失った友、失った家郷。


その白壁から柘榴の樹が一本あって、おれ
の眼を楽しませていた。柘榴の花を遠めに
見て、また近寄って、柘榴の実を見ていた。
去年は無くなった柘榴の実を見た。変貌す
る景色のなかで、おれは不変異のこころの
ままでいる。


この町の住人もすっかり変わり、時代を経
てまた変わってゆくのだろう。おれが見た
ものも、見なかったものも変化をやめない。
この世の倣いの変化だけが引き継いでゆく。


キーボードを打ちながら、おれの記録がす
べて虚辞とみなされても、それが変化する
ことはない。この世に生まれるかぎり、ひ
とびとの人生の行く末はすでに決まってい
る。


ひとびとの身心、また山川艸木、白壁にさ
え変わる変化そのものは不変なのだ。白壁
の塀の黄土色に剥がれ落ちたところには組
み入れられた藁と細い竹ひごを十字に編ん
でいるのが見えた。