ポエム 愚者の問われ方

愚者の問われ方


生を離れ、死を離れて、生きているいのち。
おれたちは苔の生えている石でできた手洗
い場所で、手を洗い、その水を飲んだ。草
原に寝そべって遊んだ。おれたちはそれぞ
れどんな未来が拓けているのか、話したは
ずだ。


それが今になって、いったい自分の人生で
何が起こったのか整理するのはすこぶる難
しい。分からない暴力ばかりのこの世で、
われわれは夢を見つづけているようだ。


お金について語る人の多いなか、おれは真
実を求めてさまよった。われわれはただ生
きて死ぬだけの存在なのだが、その生き方
が問われているのだ。


どのように生きるべきか、おれは興法寺に
行くまでの最後の石段を息せき切って登っ
たものだ。自分にされて嫌なことを他人に
しないことが法で決まっている。それは怒
りと貪りと愚かな行為だからだ。


行為がすべてを物語る。苦しみといっても、
楽しみといっても、結局のところ、生きて
いるあいだのことなのだ。死んだつもりで
考えてみろ。


苦楽をともに捨て、また善悪、生死をとも
に捨てて生きてゆくことが最上の生き方な
のだと知る。興法寺の水に到るまではほん
の少しだが苦しく厳しい坂道を、足もとに
気を付けて、また仰ぎ見て歩くのが楽しみ
だったのだ。

ポエム 消えることのない火

消えることのない火


右手にあった、失った池を思いながら、そ
の白壁の塀のぬかるんだ細道をいつも歩い
ていた。白壁の塀はすっかり剥がれ落ちて、
黄土色に剥がれ、さらに深く灰色に剥がれ
ていた。失った友、失った家郷。


その白壁から柘榴の樹が一本あって、おれ
の眼を楽しませていた。柘榴の花を遠めに
見て、また近寄って、柘榴の実を見ていた。
去年は無くなった柘榴の実を見た。変貌す
る景色のなかで、おれは不変異のこころの
ままでいる。


この町の住人もすっかり変わり、時代を経
てまた変わってゆくのだろう。おれが見た
ものも、見なかったものも変化をやめない。
この世の倣いの変化だけが引き継いでゆく。


キーボードを打ちながら、おれの記録がす
べて虚辞とみなされても、それが変化する
ことはない。この世に生まれるかぎり、ひ
とびとの人生の行く末はすでに決まってい
る。


ひとびとの身心、また山川艸木、白壁にさ
え変わる変化そのものは不変なのだ。白壁
の塀の黄土色に剥がれ落ちたところには組
み入れられた藁と細い竹ひごを十字に編ん
でいるのが見えた。



ポエム 年輪

年輪


夢の収穫のなかで、おれたちは鎌を持って、
その一本いっぽんの砂糖黍を刈り採っていっ
た。ただただ砂糖黍を採りいれるために、ど
れだけの日数が過ぎていっただろうか。おれ
たちの頭のなかで、伐採された砂糖黍の甘い
蜜が回転していた。


おれたちの手のなかに残るのは、その皮だけ
だった。未来に甘い蜜を残すためには、いま
その皮だけで満足しなければならなかった。
そんな風に年月が過ぎてゆくのを疑わなかっ
た。


夢の収穫から覚めて、おれは食事を摂り、そ
の夢のなかでは取り残された困難な現実を思
ってみる。どんな労苦が夢から抜け落ちたの
か、永く人間でいると、その細かい苦労が眼
に見えるようだ。


今日おれは新しい詩を書き綴りながら、どれ
だけの労苦を搾りだしているのか、よく判っ
ているつもりだ。困難な道から困難な道へと
おれの生活は続いている。読み手は何処にい
るのか。


この世という憂き世の夢のなかで、また睡り、
生きていることの証として、現実の脳髄のは
たらきに加えて、それに何らかな作用を起こ
して、おれたちは機械のなかで搾りだされる
砂糖黍の甘い蜜に魅せられたのだ。